1:巳年×島根の基礎知識と歩き方

脱皮して生まれ変わる蛇のイメージと重なるこの巳年に、出雲の「蛇」ゆかりの社へ。鏡の池でご縁を占い、夫婦岩で息を整え、斐伊川の深淵に神話を聴き、龍蛇神を迎える海へ向かう。作法と最新日程を確認しながら、伝承を物語として味わう大人の巡礼へ出かけましょう。
巳年ってどんな年?干支「乙巳」をやさしく解説
十二支の「巳」は蛇を象(かたど)り、脱皮を繰り返す姿から「再生」「変化」「知恵」の象意が語られてきました。2025年は十干が「乙(きのと)」で、干支は「乙巳(きのと・み)」に当たります。一般向けの歳時解説でも、乙巳は60干支の中で第42番目とされ、「柔らかい芽が環境に適応しながら伸びるように、変化に合わせて整えていく年」といった読みが広く紹介されています。暦注や「運勢」を断定する科学的根拠はありませんが、1年のテーマを自分なりに言語化する手がかりとして活用するのは楽しいもの。巳年=蛇年のタイミングで「古事記」ゆかりの地・島根を歩き、再生とご縁をテーマに旅を設計してみましょう。
なぜ島根で「蛇」なのか:神話・民俗・景観の3つの理由
第1に神話。雲南エリアを中心に伝わるヤマタノオロチの物語は、斐伊川流域の地形・水との関わりを背景に語り継がれてきました。各地の「伝承地」をたどると、蛇行する川、深い淵、杉の立つ社叢など、蛇を想起させる景観と祈りの場所が重なって見えてきます。第2に民俗。松江の佐太神社には「龍蛇神」の伝承が残り、神在月に海から現れて神々の先触れを務める御使神として崇められてきました。第3に文化。出雲には夕日を神聖視する「日が沈む聖地」の物語があり、稲佐の浜で旧暦十月に神々を迎える神迎神事が行われます。神話・民俗・景観が三位一体で体験できるのが島根の魅力です。
「ご利益」はどう捉える?—民間信仰・伝承としての位置づけ
本稿で扱う「縁結び」「金運」「厄除け」などの言葉は、文化・民俗としての伝承に基づくもので、医学的・科学的な効能や成果を保証するものではありません。たとえば八重垣神社の「鏡の池」縁占いは、占い用紙にコインを乗せて沈む位置や時間を見ますが、これは神社が案内する体験的作法であり、結果の成就を約束するものではありません。信心と礼節を大切に、観光マナーを守って楽しみましょう。本稿は各社寺の公式情報・自治体観光情報を確認し、日程や作法など客観的に確かめられる事項は明記しています。詳細は各リンク先の最新案内をご参照ください。
2025年の神在月はいつ?具体的日程と見学ポイント
2025年(令和7年)の出雲大社「神在月」は、公式に11月29日(旧暦10月10日)19:00の神迎神事(稲佐の浜)から始まり、12月6日まで諸祭が続きます。主要日程は次のとおりです(出雲大社発表)。
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11月29日(土)19:00 神迎神事(稲佐の浜)・神迎祭(拝殿)
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11月30日(日)9:00 神在祭/11:00 龍蛇神講大祭(神楽殿)
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12月1日(月)10:00 月始祭・臨時縁結大祭
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12月4日(木)10:00 神在祭・縁結大祭
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12月6日(土)10:00 神在祭・縁結大祭/16:00 神等去出祭
稲佐の浜から社までの御神幸は大変混雑します。安全確保のため交通規制が予告される場合もあるため、徒歩移動に十分な時間を確保し、係員の指示に従いましょう。
参考(表):2025年・神在月の主要祭典(出雲大社)
| 日付 | 時刻 | 祭典名 | 場所 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 11/29(土) | 19:00 | 神迎神事/神迎祭 | 稲佐の浜/拝殿 | 旧暦10/10開始 |
| 11/30(日) | 09:00 | 神在祭 | 境内 | 11:00に龍蛇神講大祭 |
| 12/01(月) | 10:00 | 月始祭・臨時縁結大祭 | 境内 | |
| 12/04(木) | 10:00 | 神在祭・縁結大祭 | 境内 | |
| 12/06(土) | 16:00 | 神等去出祭 | 拝殿 | 神々お立ち |
モデルコースと移動の基本(公共交通/自家用車)
公共交通の要は「一畑電車」と「一畑バス」。出雲市駅から出雲大社前へは一畑バス大社線で約25分、あるいは一畑電車(電鉄出雲市—出雲大社前)で向かうのが定番です。JR木次線は斐伊川流域の伝承地巡りに役立ち、木次駅からバス連絡で天が淵方面へ。空路は「出雲縁結び空港」利用が便利です。自家用車は各社の境内駐車場や公共Pを活用できますが、神在月は規制や満車が出やすいため、混雑日は公共交通を優先しましょう(最新の時刻・運行情報は必ず公式で確認)。
2:八重垣神社(松江)—鏡の池の縁占いで巳年のご縁を結ぶ
稲田姫と八重垣—物語とご祭神の基礎
八重垣神社は、ヤマタノオロチの難から身を隠した稲田姫(クシナダヒメ)が御姿を映したと伝わる「鏡の池」で知られます。ご祭神は素盞嗚尊と稲田姫命。社名の「八重垣」は、スサノオが詠んだ歌「八雲立つ…八重垣作る…」にちなむとされ、夫婦和合・縁結びの聖地として親しまれています。神話と現地の地勢が重なって体験化されているのが出雲の大きな魅力。参詣では神前での拝礼(出雲作法の二礼四拍手一礼)を丁寧に行い、鏡の池へと向かいましょう。
鏡の池の縁占い:正しいやり方と現地での所作
鏡の池では、授与所の「占い用紙」(1枚100円)を池にそっと浮かべ、10円または100円玉を置きます。15分以内に沈めば「良縁は早く」、30分以上かかると「ゆっくり」、沈む位置が近ければ「身近な人」、遠ければ「遠方の人」とのご縁、と案内されています。恋愛だけでなく仕事や人間関係など広い意味のご縁も占えるとされ、代理で祈る場合も作法上は可能。紙や硬貨は静かに扱い、周囲の方と譲り合って体験しましょう(※あくまで民間の縁占いであり、結果の成就を保証するものではありません)。
境内と周辺で寄りたい場所
本殿周辺の社叢は静謐で、奥の院「天鏡神社」へ足を延ばすと鏡の池と対になった信仰空間を感じられます。松江市街への戻り道では、玉造温泉方面の散策も好相性。「神の湯」と称された玉造は『出雲国風土記』に「一度入れば容姿端麗、再び入れば万病悉く癒ゆ」と記され、日本遺産の物語とも重なります。足湯や日帰り湯で旅の合間に温まるのもおすすめです。
参拝の流れと時間配分のコツ
混雑日は、境内参拝→鏡の池→奥の院の順で回ると行列の重複が少なく済みます。鏡の池の体験は「沈むまでの時間」を要するため、滞在30~60分は見込みましょう。紙や硬貨は事前に準備しておくとスムーズ。雨天時は足場が滑りやすくなるので歩きやすい靴が安心です。写真撮影は他の参拝者が写り込まない配慮を。社務所・授与所の受付時間は季節で変動する場合があるため、最新情報は現地掲示や公式発信をご確認ください。
行き方と実用メモ(拝観・混雑・足元)
松江駅エリアから路線バス・タクシーのほか、周遊バスやレンタサイクルも選択肢。車の場合は周辺Pを利用します。土日祝や神在月は特に混み合うため、午前の早い時間帯が比較的穏やか。鏡の池の周辺は水辺で苔むし、濡れて滑りやすい区画があります。服装は動きやすく、両手が空くデイパック推奨。天候が崩れると池のコンディションも変化するので、予備のタオルを1枚携帯しておくと重宝します。
3:須我神社(雲南)—「日本初之宮」と夫婦和合の聖地
「日本初之宮」とは何か—伝承の意味と公式の見解
須我神社は、スサノオがオロチ退治ののち、クシナダヒメと結ばれて「初めて宮造りをした地」と伝えることから「日本初之宮」と称されます。公式サイトや雲南市の案内でも、夫婦和合・児授け・安産の守護として崇敬を集める旨が示されます。ここでの「初之宮」は史実の断定ではなく信仰伝承の呼称です。歴史的事実の証明ではないことを理解しつつ、物語としての価値と、地域に根付く祈りを尊重して参拝しましょう。
奥宮(夫婦岩)へ—歩き方と安全ポイント
本殿から山道を上がると、奥宮の「夫婦岩」。苔むす岩場と樹林の中を歩くため、滑りにくい靴は必須。前日雨の影響が残るときは特に慎重に。無理のないペースで休みながら上り、写真を撮る際は足元を最優先に。スマホの電波が不安定な箇所もあるため、同行者がいればまとまって行動を。途中の鳥居や小祠で立ち止まり、深呼吸して気持ちを整える時間も取ると、奥宮での時間がより豊かになります。季節により蜂やハチドリバッタの活動が活発な時期があるため、長袖・長ズボンが安心です。
境内の見どころ・祈り方の作法
拝礼は出雲作法の二礼四拍手一礼で。境内には御神木や摂末社が点在し、静かな杜(もり)そのものが祈りの空間です。夫婦和合の祈りは、まず自分の生活を整える決意とセットにすると、旅の後の日常に還元されます。社務所の授与時間や御朱印対応は季節や行事で変わることがあるため、掲示を確認してから動きましょう。写真は他の参拝者が写らないよう配慮し、鳥居・参道の中央は「正中」として避けて端を歩くのが作法です。
参拝ベストタイムと雨天時の注意
朝の清澄な空気の時間帯は参拝者が少なく、境内の気配をじっくり味わえます。雨天時は参道のぬかるみ・滑りやすさに十分注意。傘よりレインウェアが歩きやすい場面もあります。気温差が大きい時期は羽織を一枚。奥宮に上がる予定がなければ、拝殿周辺での滞在だけでも満足度は高いので、天候と体調をみて柔軟に計画を変えましょう。雲南市観光サイトや神社のSNSで、祭礼・行事・通行止め等の最新情報が出る場合があります。
アクセスと滞在計画(公共交通/車・駐車)
最寄りの公共交通は本数が限られます。JR木次線の木次駅エリアから路線バス・タクシー併用が現実的で、休日は特に時刻の事前確認が必須です。車なら雲南市街からのアプローチが分かりやすく、駐車場は場内・周辺を利用。所要は本殿参拝のみで30~40分、奥宮まで往復するなら+60~90分見込みが安心。帰路に斐伊神社や天が淵へ足を延ばすと、オロチ伝承の地勢が立体的に見えてきます。
4:斐伊神社・八本杉・天が淵(雲南)—ヤマタノオロチ伝承地を歩く
斐伊神社は物語の核心地—基本情報と由緒
斐伊川沿いの斐伊神社は、ヤマタノオロチ伝承と結びつく社。雲南市観光協会や「出雲神話」案内サイトでも、周囲の伝承地と合わせて紹介されています。現在の社殿や御祭神の詳細は神社庁や地域案内が参照になり、社域はコンパクトながら、周辺に点在する伝承スポットとの結節点になっています。まずは拝礼を済ませ、社務所掲示の情報や周辺マップで当日の回遊計画を整えましょう。
八本杉—再生の象徴としての杉と伝承
斐伊神社の西方約50m、「八本杉」と呼ばれる杉立は、スサノオがオロチの八つの頭を埋め、その上に八本の杉を植えたという伝承に由来します。現存の杉は度重なる斐伊川の氾濫で流失のたび補植され、明治6(1873)年の水害後に植えられたものと伝えられます。伝承は史実の断定ではありませんが、地域の記憶をたくす象徴景観として大切に維持されてきました。撮影の際は根元に乗らない・踏み荒らさない配慮を。
天が淵—蛇行する斐伊川と「オロチの棲み家」
斐伊川上流、木次町と吉田町の境にある「天が淵」は、八岐大蛇が棲んだと伝わる深淵。川が小刻みに蛇行し、浅瀬と深みが連続する地形は、豪雨時の水の勢いを想像させます。近くの温泉神社には、稲田姫の父母・手摩乳命と脚摩乳命を祀る岩が安置され、伝承世界が重層的に現地化しています。増水時は河岸に降りない・無理に近づかないが鉄則。安全第一で眺望ポイントから楽しみましょう。
温泉神社と周辺の伝承スポット
天が淵の近く、万歳山の山腹にあったという神岩は、現在は温泉神社の境内に安置。周辺には「長者の福竹」など民話ゆかりの場所も点在します。これらは文献史学の厳密な史証ではなく、地域の口承と記録の積層に支えられた「伝承景観」。現地の解説板や自治体サイトの案内を読み、逸話を物語として楽しむ視点で巡ると、写真以上の記憶が残ります。
回遊の実務(アクセス/順路/所要時間)
拠点はJR木次線・木次駅。駅前からバス・タクシーで天が淵方面へ、帰路に斐伊神社と八本杉を回る順が効率的です。徒歩区間が多いので、歩行時間+撮影休憩で1スポットあたり30~45分を見積もり、3か所合計で半日を目安に。増水・工事・通行止め等の掲示に従い、川沿いでは特に足元と天候の急変に注意。トイレと飲み物は事前確保が安心です。
5:佐太神社(松江)と稲田神社(奥出雲)—龍蛇神とクシナダヒメを訪ねる
佐太神社の「龍蛇神」—海から上がる御使神の伝承
松江市・鹿島の「佐太神社」では、旧暦十月頃に海から上がる「龍蛇神」が八百万の神々の先触として迎えられると伝承されます。尻尾の斑紋が社紋(扇)と結び付けて語られるなど、地域の信仰と造形が重なるユニークな例です。研究・民俗資料にも「セグロウミヘビ」等との関わりが記され、海と祭礼の循環を物語っています(学術的解釈には諸説あり)。拝観は通常時の静かな境内も味わい深く、社務所の掲示や頒布資料で季節の祭礼情報を確認しましょう。
神在祭と龍蛇神—出雲大社との関わり
出雲大社の神在月では、稲佐の浜の神迎神事を経て、御使神「龍蛇神」が神々を先導し社へと至る旨が公式に案内されています。翌日には神楽殿で「龍蛇神講大祭」も斎行。こうした「龍蛇神」の位置づけは、出雲地域の神在伝承を印象づける重要な要素です。参列・供奉に関する要綱は毎年の案内で変わる可能性があるため、出発前に最新告知を確認のうえ、当日は警備・係員の指示に従って動きましょう。
佐太神社の社殿・境内の見どころ
佐太神社は大社造三殿並立の壮麗な社殿構成が見どころ。境内の動線は素直で、正中を避けて端を歩く、鳥居で一礼するなどの基本作法を踏まえつつ、ゆったり回るのが心地よい参詣です。拝礼は出雲作法(2礼4拍手1礼)。社紋や彫刻意匠、古い祭具の展示など、各所に「龍蛇」のモチーフが散りばめられています。祭礼期間中は仮設の動線が設定されることもあるため、現地掲示に従って進みましょう。
稲田神社—クシナダヒメを祀る里へ
奥出雲の「稲田神社」はクシナダヒメを祀る社で、「産湯の池」や「笹の宮」などの伝承地とセットでめぐるのが楽しいエリア。里の田畑や集落の景観と神話が重なる「物語の風景」は、出雲でも格別の趣です。冬季は路面状況に注意。参拝所要は30~45分を目安に、周辺スポットと合わせて半日プランに組み込みましょう(ここでも「ご利益」は民間信仰としての位置づけで捉えるのが適切です)。
稲佐の浜・玉造温泉・命主社—周辺立ち寄りの要点
神在月の起点「稲佐の浜」は国譲り・国引き神話の舞台で、夕日の絶景地としても名高いスポット。日没時刻の前後は特に混雑するため、車は出雲大社側に置き徒歩で向かうのが安全です。松江の玉造温泉は『出雲国風土記』に記された「神の湯」。足湯・日帰り湯で旅の疲れを整えましょう。出雲大社の摂社・命主社も静かな参拝に向く小社で、巨木の御神木が印象的です。
まとめ
2025年・巳年は「変化」と「再生」を象徴する年。島根・出雲で蛇にまつわる神話と民俗を歩けば、自然と人間の営みが織りなす時間の層を、足裏と五感で確かめられます。日程・作法・アクセスは最新の公式情報で確認し、「ご利益」は民間信仰・伝承として穏やかに受けとめる。礼節を守り、地域に敬意を払って歩くことが、最良の旅をつくります。神迎の炎が揺らぐ稲佐の浜、鏡の池に広がる波紋、杉立に射す光—その一瞬一瞬が、あなた自身の「再生」の物語につながるはずです。


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