第1章 造化三神とは?3柱の基本と神話の中での位置づけ
「造化三神(ぞうかさんしん)」という言葉を聞いたことはあるけれど、どんな神様なのかはよく分からない――。そんな人は少なくないと思います。
天之御中主神・高御産巣日神・神産巣日神。この三柱は、日本神話において、まだ世界が固まっていない「はじまりのとき」に姿をあらわしたとされる神々です。人間の姿をしたキャラクターというより、世界や人生が動き出すための「方向」「創造」「むすび」の力を象徴する存在だと考えられています。
この記事では、「造化三神は何の神様なのか」を古典の内容をふまえて整理しつつ、現代のわたしたちの暮らしにどう活かせるのかを、恋愛・仕事・家族・心の健康といった身近なテーマと結びつけて解説します。「とほかみえみため」という言葉の意味や、自宅でできる簡単な祈り方、7日間で試せる「はじまり直しワーク」も紹介していきますので、神社が好きな人はもちろん、最近ちょっと人生の方向を見直したいと感じている人にも、きっとヒントになるはずです。
※本章をふくめ、神話の流れについての説明は、基本的に『古事記』の記述をもとにしています。『日本書紀』などでは、神々の並びや表現が異なる巻もあり、必ずしも同じとは限りません。さらに、研究者の中には「造化三神の伝承は、他の神々の物語に比べて後から付け加えられた可能性がある」と見る立場もあります。ここでは、そうした学説があることをふまえたうえで、一般に親しまれている『古事記』の流れに沿って整理していきます。
1-1 造化三神の名前と役割をやさしく整理
まず、名前と役割を整理しておきましょう。
造化三神(ぞうかさんしん)は、『古事記』に登場する三柱の神で、まだ天と地がはっきり分かれていない世界の「ごく初期」に姿をあらわした存在と説明されています。
三柱の名前は、次のとおりです。
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天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)
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高御産巣日神(たかみむすひのかみ)
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神産巣日神(かみむすひのかみ)
神話の解説では、この三柱は天地や万物を生み出し、育てていく「根本的なはたらき」を象徴しているとされます。ここでいう「神」は、人間と同じような姿のキャラクターというより、「世界が動き出すための力」を人格化したものに近いイメージです。
現代の言葉で整理すると、次のようにとらえることができます。
| 名前 | ひと言イメージ | キーワード |
|---|---|---|
| 天之御中主神 | 宇宙の中心・軸を表す神 | 中心・バランス・方向性 |
| 高御産巣日神 | 新しいものを生み出す力を表す神 | 創造・スタート・発展 |
| 神産巣日神 | いのちや縁を育てる力を表す神 | 育成・結びつき・継続 |
これは古典そのものの用語ではなく、『古事記』や神社の解説で語られる性質を、現代の日常感覚に合わせて整理し直したものです。「方向」「はじまり」「育てる」の三つの力としてとらえておくと、この後の話がぐっと分かりやすくなります。
1-2 古事記に描かれる天地開闢と三柱の登場
『古事記』によると、世界のはじまりは「混沌としてまだ固まらない状態」からスタートします。
軽く清らかなものが上へとのぼって高天原となり、重くにごったものが下に沈んで地となる――そんなイメージです。
この段階で、山や川、人間の姿はまだありません。その「世界が形になり始める瞬間」に現れるのが、造化三神です。
流れを簡単にまとめると、
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一番最初に天之御中主神があらわれる
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続けて高御産巣日神と神産巣日神があらわれる
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いずれも「独り神(ひとりがみ)」として現れ、そのまま「身を隠した」と書かれている
という順番になります。
このあと、別天津神(べつあまつかみ)や神世七代(かみのよななよ)が続き、イザナギ・イザナミやアマテラス、スサノオといった有名な神々の物語へとつながっていきます。
つまり造化三神は、日本神話のドラマの「最初のシーン」で、世界そのものが立ち上がるための土台として登場する神々だと言えます。
1-3 「何の神様?」を現代語で言い換えると
「造化三神って結局、何の神様なの?」という疑問に、現代語でどう答えられるでしょうか。
ここからは、古典の内容をふまえつつ、それを現代の生活に当てはめて整理した説明になります。
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天之御中主神
→ 世界や人生の「中心・軸・バランス」を整えるはたらきを象徴する神。自分の方向性や価値観を見直したいときに意識しやすい存在です。 -
高御産巣日神
→ 新しいものを「生み出し、動かしていく」力を象徴する神。スタートや挑戦、発展といったテーマとの相性が良いと考えられます。 -
神産巣日神
→ 生まれたものを「育て、結びつけ、続けていく」力を象徴する神。家族・仲間・地域との縁や、長く続いていく豊かさに重ねてイメージされることが多いです。
学問的に「絶対こうだ」と決まっているわけではありませんが、神社の案内や入門書などでは、このような方向で説明されることが多くなっています。「はじまり」「創造」「むすび」の三つの働きとして覚えておくと、その後のご利益や祈り方の話もイメージしやすくなります。
1-4 「独神」「身を隠す」という表現のイメージ
造化三神について語られるとき、必ず出てくる言葉が「独神」と「身を隠す」です。これも少し分かりにくいので、意味とイメージを整理しておきます。
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独神(ひとりがみ)
他の神とペアになったり、夫婦として登場したりせず、一柱だけで現れる神のこと。世界を支える基本的な力を表す存在として、特別な位置づけです。 -
身を隠す
神話の物語の中で前面に出て活躍し続けるのではなく、「背景に回って働く」というニュアンスで理解されます。
現代的なたとえで言うと、スマホの「アプリ」ではなく、OSや電源のような存在です。普段は意識しませんが、それがなければすべてが動きません。
造化三神も同じように、私たちの人生の中で、「方向を決め」「物事を始め」「育てていく」力として、見えないところで働き続けている――そんなふうにイメージしてみると、神話の話が今の暮らしとつながってきます。
1-5 有名な神々との関係をシンプルに把握する
アマテラスやスサノオ、イザナギ・イザナミなど、有名な神々との関係も整理しておきましょう。
神話の流れは、おおまかに次のようになります。
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造化三神(宇宙の土台となる三柱)
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さらに二柱をふくめた別天津神(世界の基本構造を整える神々)
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神世七代(かみのよななよ:地上世界の枠組みを整える神々)
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イザナギ・イザナミとその子どもたち(アマテラス・ツクヨミ・スサノオなど)
造化三神が、イザナギやアマテラスの「親」と書かれているわけではありませんが、神々全体の「かなり上流」に位置づけられていることがわかります。
また、高御産巣日神は「高木神(たかぎのかみ)」という名でも登場し、天孫降臨の場面などで重要な決断を下す存在として描かれます。神産巣日神も、大国主神を助ける場面などに関わります。
つまり造化三神は、「最初に出てきて終わり」の神ではなく、物語全体の流れを支えながら、ところどころで重要な役割を果たす存在だと言えるでしょう。
第2章 造化三神のご神徳とご利益イメージ
※ここから先に出てくる「ご利益」や具体的なエピソードは、神社の由緒や一般的な信仰の説明をもとにした「信仰上の理解」「現代的な整理」です。医学的・科学的に効果が保証されるものではなく、実際の問題については医師・専門家・公的窓口などへの相談も大切にしてください。
2-1 ご神徳とご利益の違いをおさえておく
まず、「ご神徳」と「ご利益」の違いを軽く整理しておきましょう。
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ご神徳
その神様が本来持っている性質や働き。いわば「神様らしさ」「その神の得意分野」です。 -
ご利益
ご神徳が人間の生活の中で具体的な形となって表れたと感じること。たとえば「仕事で良いご縁があった」「家族の関係が前より穏やかになった」などです。
造化三神のご神徳を整理すると、
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方向性・中心を整える(天之御中主神)
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新しいものを生み出し、動かし始める(高御産巣日神)
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いのちや縁を結び、育てていく(神産巣日神)
という三つの柱になります。
ここから先は、この三つの柱をもとに、恋愛・仕事・家族・心の安定といった身近なテーマへとつなげていく「応用編」です。
2-2 縁結びや良縁と「むすび」の力
高御産巣日神と神産巣日神の名前に共通する「産巣日(むすひ)」は、「生み出す」「結びつける」といった意味の古い言葉です。神話の解説では、宇宙や自然に働く「生成の力」「結びつける力」をあらわす言葉とされています。
このむすびのイメージが、現代では「縁結び」「良縁」「夫婦円満」といった願いと重ねられています。造化三神を祀る神社の案内でも、「人と人との調和」「家族のつながり」「地域の繁栄」といった、広い意味での「結びつき」がご神徳として紹介されることがあります。
恋愛や結婚を願うときも、「理想の相手をください」という一方通行のお願いだけでなく、
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自分がどんな関係を育てたいのか
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相手とどう協力していきたいのか
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どんな自分で関わりたいのか
まで含めて考えると、「むすび」の力と自分の行動がかみ合いやすくなります。
たとえば、お願いと一緒に
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自分の良いところと直したいところをノートに書いてみる
-
周りの人への感謝を、言葉にして伝える回数を増やす
といった小さな実践を始めると、「ご利益を受け取る側の準備」が整っていくイメージです。
2-3 仕事運・金運・キャリアに活かす視点
仕事運や金運について考えるとき、造化三神は「一発逆転」よりも「土台からじわじわ効いてくる」タイプのご利益とイメージすると分かりやすくなります。
現代的な整理としては、
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天之御中主神 → 仕事の軸・価値観・方向性を整える
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高御産巣日神 → 新しい挑戦や企画をスタートさせる力
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神産巣日神 → 続ける力・育てる力・チームワーク
という三つの役割分担で考えることができます。
具体例としては、
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転職・独立・副業を考えている
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新しいサービスや商品を立ち上げたい
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部署やチームの方針を決める立場になった
といった場面で、「方向性」「始める」「育てる」の三つの視点から自分の状況を見直してみると、物事が整理されてきます。
お参りをするときには、単に「仕事がうまくいきますように」だけでなく、
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どんな働き方をしたいのか
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誰を喜ばせたいのか
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自分が大事にしたい価値観は何か
を書き出し、その上で「それを実現するためのご縁と勇気をお与えください」と祈ると、造化三神のご神徳と日々の努力がつながっていきます。
2-4 心と体を整える「リセット」のイメージ
天之御中主神は、近世以降の妙見信仰の中で、星の信仰と結びつけられてきた神でもあります。妙見信仰では、多くの解説で、
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北極星
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北斗七星
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またはその両方や、その周辺の星々
を妙見として尊び、「夜空の中心」「あまり動かない星」「道しるべとなる星」として大切にしてきました。どの星を特に重視するか、どの神仏と結びつけるかについては地域差や時代差があり、妙見信仰は土地ごとに姿の少しずつ違う信仰でもあります。
なお、妙見信仰はもともと「妙見菩薩」という仏教の信仰が起点になっており、のちに神仏習合・神仏分離の流れの中で、妙見菩薩の神格を天之御中主大神と重ねて祀る神社も現れました。すべての妙見社が同じ解釈というわけではありませんが、そのように説明する例が多いと言えます。
この「動かない星」「中心」というイメージは、私たちの心にも重ねて考えることができます。忙しい日々の中で、
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何から手をつけたらいいか分からない
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人の目ばかり気にしてしまう
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疲れがたまって心も体もバラバラな感じがする
そんなときに、「自分の中心に戻る」時間を意識して作ることは、とても大きな意味があります。
具体的には、
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いったんスマホを置いて、背筋を伸ばす
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ゆっくり深呼吸を3回する
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「今日、自分にとって一番大事なこと」を1つだけ決める
この3ステップだけでも、心の状態は少し変わります。そのうえで、「天之御中主神のもと、自分の軸を大切にして過ごします」と静かに言葉にしてみると、単なる時間管理ではない「リセットの儀式」になります。
2-5 願いが叶わないと感じるときの三つのチェックポイント
神社に通っても、「なかなか願いが叶わない」と感じることもあります。そんなとき、造化三神の三つの力に照らして、自分の願いを見直してみるとヒントが見つかるかもしれません。
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方向ははっきりしているか(天之御中主神の視点)
「お金が欲しい」「幸せになりたい」だけではぼんやりしすぎていて、行動につなげにくいものです。-
どんな働き方で
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誰と一緒に
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どんな生活を送りたいのか
まで具体的にしていくと、願いの方向がはっきりしてきます。
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小さくても行動しているか(高御産巣日神の視点)
新しいことを生み出す力は、「動き出すことでしか働かない」とも言えます。-
本を一章だけ読んでみる
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気になる講座の資料請求だけしてみる
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相談したい人にメッセージを送ってみる
など、「今日の一歩」を意識しているか振り返ってみましょう。
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時間を味方につけているか(神産巣日神の視点)
種をまいても、すぐには実りません。-
三日坊主で「やっぱりダメだ」と決めつけていないか
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半年前と比べて何か変化していないか
を見直してみると、「実は少しずつ進んでいた」と気づくこともあります。
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「叶わない=意味がない」と考えるのではなく、「まだ方向・行動・時間のどこかが整っていないのかもしれない」と受け取ってみると、造化三神の三つの力と上手に付き合えるようになります。
第3章 造化三神ゆかりの神社と参拝の考え方
3-1 造化三神を祀る神社のタイプと考え方
ここからは、造化三神やその周辺の神々を祀る神社について、代表的なパターンを紹介します。全国すべてを網羅するわけではありませんが、「こういうタイプの神社がある」という目安として読んでください。
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造化三神をまとめてお祀りする神社
祭神の一覧に「天之御中主神・高御産巣日神・神産巣日神」の三柱が並ぶタイプです。天地万物の生成や、むすびの力を強調する由緒が語られることが多いようです。 -
高御産巣日神・神産巣日神(産霊の神)を中心とする神社
「高皇産霊神」「神皇産霊神」「高木神」などの名で祀られることもあり、農業・子孫繁栄・地域の繁栄・事業発展などがご神徳として紹介されることがあります。 -
妙見信仰から天之御中主神を祀る神社
多くの妙見社では、北極星や北斗七星(またはその両方・周辺の星々)を妙見として祀り、その神格を天之御中主大神と重ねているところがあります。ただし、どの星を特に重視するかや、どの神仏と結びつけるかは地域や時代によって幅があり、すべての妙見社が同じ解釈というわけではありません。
参拝するときは、「どのタイプの神社だからすごい・すごくない」ということではなく、自分の願いや生活のテーマと近い由緒を持つかどうかを大事にして選ぶのがおすすめです。
3-2 天之御中主神と星・方位の信仰
妙見信仰では、夜空の星々、特に北極星や北斗七星が「中心」「道しるべ」として信仰されてきました。多くの解説で、妙見は
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北極星
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北斗七星
-
この両方、またはその周辺の星座全体
のいずれか、もしくは組み合わせと結びつけて語られています。細部は諸説ありますが、「方角や中心を示す星への信仰」である点は共通しています。
その影響を受けて、多くの妙見社では、
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方位や厄除け
-
進路や勝負事
-
交通安全
などの守り神として信仰されてきました。
先ほども触れたように、妙見信仰は本来、仏教の妙見菩薩の信仰から始まっています。その後の神仏習合や明治期の神仏分離の中で、妙見菩薩の神格を天之御中主大神などと重ねる形で祀る神社が生まれました。そのため、「妙見=天之御中主神」という関係は、歴史の中で形作られてきたものだと言えます。
天之御中主神を妙見さまに重ねて祀る神社では、
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人生の方向性を見定めたいとき
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大きな決断を前にしているとき
-
家族や組織の「進むべき道」を話し合いたいとき
に参拝する人が多いようです。
現代的な取り入れ方としては、星空を見上げるタイミングで
-
今の自分が大切にしたいこと
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一年後の自分の姿
をノートに書き出し、「この方向で進めるよう、迷ったときの心の灯台でいてください」と天之御中主神にお願いする、といったやり方があります。占いのように「良い・悪い」を判断してもらうのではなく、「自分の軸を確かめる場」として活用すると、落ち着いて選択ができるようになります。
3-3 高御産巣日神・神産巣日神を祀る社と暮らしの祈り
高御産巣日神や神産巣日神を主祭神とする神社では、「産」「巣」「むすび」といった言葉がよく出てきます。いのちを生み、場を整え、育てていく力を象徴する言葉です。
こうした神社では、次のような願いがよく聞かれます。
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家族の健康・家内安全
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子どもの成長・子孫繁栄
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農業や商売の繁盛
-
地域全体の安定と発展
ここでもポイントは、「一度きりの幸運」ではなく、「長く続いていく豊かさ」に目を向けることです。
たとえば仕事なら、
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自分だけが得をする形より、関わる人が少しずつ豊かになる形を目指す
-
売上だけでなく、お客さんとの信頼関係やチームの空気も大切にする
といった姿勢が、「育てる神」と相性の良い願い方だと言えます。
参拝のあとにできる具体的な行動としては、
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生活リズムを整える(睡眠・食事・片づけなど)
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感謝を伝える回数を意識的に増やす
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無理のある予定を減らし、「育つ余白」をつくる
といった、小さな習慣の見直しが効果的です。
3-4 家族・子育て・安産を祈るときのポイント
安産祈願や子育ての祈りができる神社は全国にたくさんあり、そのすべてが造化三神を祀っているわけではありません。それでも、「いのちのはじまり」や「家族の土台」を支えてくれる神様という点で、造化三神と通じるテーマを持つ社は多くあります。
家族に関するお願いをするときは、次の三つの観点で神社を選んでみてください。
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いのちのスタートを守ってくれるか
安産・子授け・子供の健康などを前面に出しているか。 -
家庭の土台を支えてくれるか
家内安全・夫婦円満・家庭円満など、家そのものを整えるご神徳を掲げているか。 -
子どもの成長や進路を見守ってくれるか
学問の神様や道開きの神様など、「育っていくプロセス」を応援してくれるか。
造化三神と縁のある神社で家族のことを祈る場合は、次のようなお願いの仕方もおすすめです。
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「新しい家族のはじまりが、穏やかであたたかいものになりますように」
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「家族それぞれの道がちがっても、お互いを尊重し合えますように」
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「何度つまずいても、またやり直せる家でいられますように」
このように、「一度きりの結果」よりも、「何度でもはじまり直せる土台」を願うと、造化三神のテーマと自然に重なっていきます。
3-5 近所で自分に合う神社を見つけるステップ
最後に、日常的に通える「自分のホーム神社」の見つけ方をまとめておきます。必ずしも造化三神を祀っている必要はありませんが、次のようなステップを意識すると、自分に合う場所が見つかりやすくなります。
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祭神を調べる
気になる神社があれば、案内板や公式サイトで祭神をチェックします。-
天之御中主神
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高御産巣日神(高皇産霊神・高木神など)
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神産巣日神(神皇産霊神など)
の名前があれば、造化三神や産霊の神とのご縁がある場所です。
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由緒やご神徳のキーワードを見る
「むすび」「産霊」「妙見」「星」「北斗」「家内安全」「地域の守り」など、自分の関心に近い言葉があれば、心がなじみやすい社かもしれません。 -
実際に足を運び、居心地を確かめる
参道の空気や境内の雰囲気、拝殿の前に立ったときの気持ちを大切にしてみてください。「なぜか落ち着く」「また来たい」と感じた場所なら、それが一番のご縁です。
有名・無名よりも、「通いやすく、心が落ち着くかどうか」を基準にする。そんな選び方が、造化三神の「長く続くご利益」と相性の良い神社の付き合い方になります。
第4章 ことばで感じる造化三神:「とほかみえみため」と祝詞
4-1 祝詞とは何かを整理する
神社で神職さんが声に出して唱えている日本語の文が「祝詞(のりと)」です。祝詞にはさまざまな種類がありますが、おおまかには次のような役割を持っています。
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世界や神々の成り立ちを言葉でたどる
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神様への感謝や願いごとを、ていねいな日本語で表現する
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穢れを祓い、人と神の関係を整える
すべての祝詞に造化三神の名前が出てくるわけではありませんが、天地開闢や国土の平安をうたう祝詞の中では、別天津神や産霊の神々に触れられることがあります。
参拝者側が祝詞をすべて暗記する必要はありません。ただ、「祝詞が読まれている時間は、神話のはじまりから今ここまでの流れを、神職さんがまとめて言葉にしてくれている時間なんだ」と知っておくだけでも、耳に入ってくる響きの感じ方が変わります。
自分で短い言葉を作るときも、
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まず感謝を伝える
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次に、お願いごとを素直な言葉で述べる
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最後に、自分もどう行動したいかを一言そえる
という流れを意識すると、祝詞の構成に近づきます。
4-2 「とほかみえみため」公的説明と民間解釈
「とほかみえみため(とおかみえみため)」という言葉は、近年、書籍や雑誌、動画などでよく取り上げられるようになりました。ここでは、まず公的な説明に近い見解と、そのうえで広まっている現代の解釈を分けて整理します。
1. 公的な説明に近い見解
神社本庁の解説を紹介する資料などでは、「吐普加美依身多女(とおかみえみため)」という言葉が、もともと亀卜などの占いの際に唱えられた言葉であった、と紹介されます。
意味については、
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「遠つ御祖の神、御照覧あれ」
-
「遠つ御祖の神、笑み給え」
といった訳が例として挙げられますが、「絶対にこれ」という決まりがあるわけではなく、あくまで一つの説として扱われています。ここで紹介している内容は、このような神社本庁関連の解説を踏まえた説明です。
2. 近年広まっている民間の解釈
一方で、近年の一部の神道系グループやスピリチュアル系の本・雑誌・個人ブログなどでは、
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造化三神や高次の神々とつながる言霊
-
先祖や神々に向けて「どうか微笑んでください」とお願いする言葉
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心身や空間を整える浄化の言葉
といった形で解釈されることもあります。こちらは流派や著者によって意味づけが異なり、「公的な統一見解」というより、「それぞれの教え方・感じ方」に属するものです。
この記事では、「とほかみえみため」は
もともとは占いの場面などで唱えられた古い言葉であり、
意味にはいくつかの説がある。
現代では、先祖や神々に心を向ける短い祈りの言葉として使われることが多い。
という程度の、少し幅を持たせたイメージで扱うことにします。ここで挙げた意味や訳し方はいずれも「有力な説の一つ」であって、「唯一の正解」ではない、という点も意識しておいてください。
4-3 日常生活の中でのシンプルな唱え方
意味に諸説はあるものの、「とほかみえみため」を唱えることで心が落ち着いたり、気持ちの切り替えがしやすくなったと感じる人は多いようです。ここでは、特定の流派にこだわらない、シンプルな取り入れ方を紹介します。
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朝、顔を洗ったあとにタオルで顔をふき、姿勢を正す
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目を閉じて、ゆっくりと深呼吸を3回する
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心の中で「とほかみえみため」と3回唱える
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そのあと、「今日一日、落ち着いて過ごせますように」と自分の言葉でつぶやく
ポイントは、「何回唱えれば効果が出るか」を気にしすぎないことです。唱えたあとに、少しでも
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呼吸がゆっくりになった
-
頭の中のざわざわが静かになってきた
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「まあ大丈夫か」と思えるようになった
と感じられれば、それがその人にとっての意味ある時間です。
この言葉を唱えたからといって、すべての問題がすぐに解決するわけではありません。あくまで、「心の姿勢を整えるひと言」として付き合っていくのが、健康的な使い方だと思います。
4-4 忙しい人のための朝・昼・夜ミニルーティン
長い祈りの時間を取るのが難しい人でも、生活のすきま時間をうまく使えば、無理なく造化三神を思い出すことができます。例として、次のようなミニルーティンを組んでみてください。
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朝:一日の方向を決める時間
玄関で靴をはく前に、深呼吸を一つ。
「天之御中主神」と心の中で呼びかけて、
「今日は○○を大事にして過ごします」と一言だけ宣言する。
たとえば「丁寧さ」「笑顔」「集中」など、日によって変えても構いません。 -
昼:小さなチャレンジを始める前の区切り
昼休みの終わりに、ノートやメモアプリを開き、
「このあとやること」を一つだけ書いてから、「とほかみえみため」と軽く唱える。
高御産巣日神の「始める力」を意識して、行動にうつしやすくします。 -
夜:育っているものに気づく時間
寝る前にその日をふり返り、
「よかったこと」「助けてもらったこと」を三つ書き出す。
書き終えたら、「神産巣日神、今日も育ててくれてありがとうございます」と心の中で伝える。
どれも数十秒〜数分あればできる内容です。「余裕があるときだけ」でも続けてみると、少しずつ自分の中に「はじまり」と「むすび」の感覚が根づいていきます。
4-5 スピリチュアルに偏りすぎないための注意点
神様や言霊について調べていると、「この方法だけが正しい」「これさえやれば何でも叶う」といった極端な情報に出会うこともあります。造化三神や「とほかみえみため」と健全に付き合うために、次の三つは意識しておきたいところです。
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現実の問題には専門家の力も借りる
お金、法律、健康、メンタルなどの問題は、医師・弁護士・専門の相談窓口などのサポートが必要になることがあります。祈りの時間は、「落ち着いて相談に行く勇気」をもらうための支えとして使うのがおすすめです。
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自分や他人を責める材料にしない
「願いが叶わないのは信じ方が足りないからだ」と自分を責めたり、「あの人は信心がないから不幸なんだ」と他人をジャッジしたりするのは、むすびの神の方向とは逆です。祈りは「誰かを罰するもの」ではなく、「心を整え、行動を選びやすくするもの」として大切にしましょう。
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生活が苦しくなるほど時間やお金をかけない
高額なグッズやセミナーなどに、生活費を削ってまで投じてしまうと、本末転倒になりかねません。日々の暮らしを丁寧にし、身近な人を大事にすることそのものが、神道では尊い行いとされています。
造化三神は、「一人で全部抱え込まなくていい」と教えてくれるような神様です。現実的な行動と祈りの時間、その両方をバランスよく大切にしながら、自分なりの距離感を探してみてください。
第5章 造化三神と「はじまり直し」7日間ライフデザインワーク
※ここから先は、これまで紹介した神話やご神徳のイメージをふまえたうえでの、筆者による現代的な活用アイデアです。古典に直接書かれている内容ではありませんが、日常生活に落とし込む一つの参考例として読んでください。
5-1 三柱を「心・仕事・人間関係」の三つの軸に当てはめる
最後の章では、造化三神のイメージを、実際の暮らしを整えるワークに落とし込んでいきます。分かりやすくするために、三柱を次の三つの軸に当てはめてみます。
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天之御中主神 → 心・価値観・人生の方向性
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高御産巣日神 → 仕事・学び・挑戦
-
神産巣日神 → 人間関係・家族・地域とのつながり
もし今、
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なんとなく心が落ち着かない
-
仕事や勉強にモヤモヤしている
-
家族や友人との関係に悩んでいる
と感じているなら、それぞれどの神様のテーマに近いかを考えてみてください。どの軸から整えるかが見えてくると、「どこから手をつければいいのか分からない」という状態から一歩抜け出しやすくなります。
5-2 7日間ワークの全体像
ここでは、「7日間だけは、少し本気で自分を整えてみる」というイメージのワークを提案します。ノート1冊とペンがあれば十分です。各日は5〜10分程度を目安にしてください。
| 日 | テーマ | 関連する神 | やることの例 |
|---|---|---|---|
| 1日目 | 心の棚おろし | 天之御中主神 | 今の不安・悩み・やりたいことを全部書き出す |
| 2日目 | やめることを決める | 天之御中主神 | 「本当はやめたい習慣」を3つ選び、少しずつ減らす計画を立てる |
| 3日目 | 小さなチャレンジを一つ決める | 高御産巣日神 | 今日からできる新しい行動を1つ決める |
| 4日目 | 応援してほしい人を思い浮かべる | 高御産巣日神 | 助けてほしい人・相談したい人を3人書き出す |
| 5日目 | すでにあるご縁を数える | 神産巣日神 | 自分を支えてくれている人・場所・習慣を書き出す |
| 6日目 | 感謝を一人に伝える | 神産巣日神 | その中から1人選んで「ありがとう」を伝える |
| 7日目 | 新しいはじまり宣言を書く | 三柱すべて | 1か月間こう生きてみたい、という宣言文を書く |
すべて完璧にこなす必要はありません。「少しだけでもやってみた」という事実が、自分の中の「はじまりのスイッチ」を押してくれます。
5-3 ノートで願いを整理する具体的な書き方
7日間ワークを進めていくと、「自分が本当に望んでいること」が少しずつ見えてきます。そこで、ノートの中に三つの「箱」を作り、願いを整理してみましょう。
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心の箱(天之御中主神)
-
どんな気持ちで毎日を過ごしたいか
-
大事にしたい価値観は何か
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手放したい考え方や思い込みは何か
-
-
仕事の箱(高御産巣日神)
-
どんな働き方・学び方をしたいか
-
どんな能力を育てたいか
-
収入や時間の使い方をどうしたいか
-
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人の箱(神産巣日神)
-
どんな人との関係を深めたいか
-
どんな家族・仲間でありたいか
-
これから出会いたいご縁のイメージは何か
-
それぞれの箱に対して、
-
「こうなったらいいな」という理想
-
「今、ここがつらい」という現状
-
「今日からできる一歩」
をセットで書くと、自然と現実的な行動案が浮かんできます。願い事を「紙の上に並べてみる」だけでも、頭の中が整理され、気持ちが軽くなっていくのを感じるはずです。
たとえば、
-
「自分の軸を大事にしたい」
→ 「毎朝3分だけ、今日やらないことを一つ決める」 -
「収入を安定させたい」
→ 「1日20分だけ、スキルアップの勉強時間を確保する」 -
「家族とのケンカを減らしたい」
→ 「週に1回、スマホをテーブルに置いて、一緒にご飯を食べる時間をつくる」
といった具合に、「願い+具体的な行動」をセットにすると、造化三神のご神徳と日常生活が自然と結びついていきます。
5-4 続けやすくするためのルールとチェックリスト
どれだけ良いワークでも、「続けられなかった自分」を責めてしまっては意味がありません。続けやすくするために、最初から「ゆるいルール」を決めておきましょう。
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1日休んでも、翌日から普通に再開してOK
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書く気がしない日は、「今日はお休みします」と一行だけ書けば合格
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1週間続いたら、自分に小さなごほうびをあげる
さらに、月に1回くらい、次のチェックリストを使って振り返ってみてください。
心(天之御中主神)
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昔よりも「本当はイヤなこと」を断りやすくなっているか
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「これだけは大事にしたい」という価値観を一つ言葉にできるか
仕事(高御産巣日神)
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新しく試した行動が一つ以上あったか
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失敗しても、「なぜうまくいかなかったか」をノートに書けたか
人間関係(神産巣日神)
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「ありがとう」を伝えた回数が少し増えているか
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無理をしている関係から、少し距離を取る工夫ができたか
チェックしてみて、「完璧ではないけれど、前よりはマシになっている」と感じられれば、それはもう立派な変化です。その小さな変化を見つけるたびに、「造化三神が後押ししてくれているのかもしれない」と心の中でお礼を伝えてみてください。
5-5 小さな変化としてご利益を受け取る
最後に、「ご利益の受け取り方」の視点をもう一度整理しておきます。
造化三神のテーマは、世界や人生の「土台」を整えることです。そのため、多くの場合、ご利益は
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すぐに劇的な結果が出る
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一夜にして人生が変わる
という形ではなく、
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前よりも落ち着いて物事を考えられるようになった
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なんとなく良いタイミングで人に助けてもらえることが増えた
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小さな挑戦を続ける力がついてきた
といった「小さな変化」として現れてくることが多いのではないかと思います。
その変化に気づくための道具として、
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毎晩の「よかったこと日記」
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新しい出会いや出来事を書いておく「ご縁ノート」
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一か月前・半年前のノートを読み返してみる習慣
などが役立ちます。
読み返してみて、「あの頃よりは、だいぶ考え方が変わってきたな」と感じられたら、それはすでに造化三神のご神徳と、自分の行動が少しずつ結びついてきた証拠と言えるでしょう。
まとめ:造化三神は「はじまり直し」を支える三つの力の神様
造化三神は、『古事記』で世界が形を持ち始める「いちばん最初の場面」に登場する三柱の神です。
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天之御中主神…心や人生の「中心・方向性」を整える力
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高御産巣日神…新しいことを「生み出し、スタートさせる」力
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神産巣日神…いのちや縁を「結び、育て、続けていく」力
という三つの働きは、私たちが生き方を見直し、「もう一度ここから始めてみよう」と思うときに、とても心強い支えになります。
現代の暮らしに当てはめて一言でまとめるなら、造化三神は「はじまり直しの運気を整えてくれる神様」とイメージすることもできます。
ただし、それは宝くじのような一発勝負ではなく、
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願いの方向をはっきりさせる
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小さな行動を積み重ねる
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時間を味方にして育てていく
というプロセスを後押ししてくれる力だと考えた方が、現実の生活とは相性が良いように感じます。
また、お金・健康・法律・人間関係などの具体的な問題は、神様に祈ることとあわせて、医師・弁護士・カウンセラー・公的な相談窓口といった専門家に相談することも大切です。祈りの時間は、「落ち着いて相談に行く勇気」を整えてくれる時間だととらえると、信仰と現実的な対処を無理なく両立させることができます。
神社で手を合わせるときも、自宅で短い言葉をとなえるときも、「自分はどんなはじまり方を選びたいのか」を静かに見つめる時間にしてみてください。その一つ一つの時間が、造化三神との小さな対話になっていきます。


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